介護の現場で認知症の方と接していると、ふと「これってあの人気アニメに似ているな」と思うことがあります。
それは『Re:ゼロから始める異世界生活(リゼロ)』です。
主人公が失敗して命を落としても、時間を巻き戻して「死に戻り」し、最適なルートを探して何度でもやり直すあの物語。実は、認知症ケアの現場でも、これと似たような「リセットとやり直し」が日々繰り返されています。
今回は、介護業界に飛び込んで3年目の私が現場で体感している、ちょっと独特な「攻略法」についてお話しします。
「死に戻り」によるリセットの魔法
介護の現場では、利用者さんに何かをお願いして「嫌だ!」と強く拒否されたり、不機嫌にさせてしまったりする「失敗ルート」に入ることがよくあります。
普通の人間関係なら、一度気まずくなると後を引きますよね。でも、認知症の方の場合は、少し時間を置くことで記憶が「リセット」されることが少なくありません。
数分後、あるいは数時間後に改めて声をかけると、先ほどの怒りが嘘のようにケロッとしていて、すんなり受け入れてくれる。
この「失敗しても何度でもやり直せる」という感覚は、まさにリゼロの「死に戻り」そのものです。介護スタッフにとって、このリセット機能はある種の救いでもあります。
介護士は「デバッカー」? 毎日変わるクリア条件
とはいえ、ただ時間を置いてやり直せばいいという簡単な話ではありません。
この「正解ルート探し」の感覚は、リゼロの死に戻りというより、未完成のゲームをテストプレイする「デバッカー(不具合を探す人)」の視点に近いです。
相手の反応を見ながら、声のトーンを変えたり、提案の切り口(入力コマンド)を変えたりと、あの手この手で「今日のクリア条件」を探り当てていく必要があります。
この時、現場の大前提となるのが「決定事項を押し付けず、ご本人に選択肢を与える(〜しませんか?と聞く)」というルールです。
例えば、お風呂に入ってほしい時の私の脳内はこんな感じです。
- テスト①:「お風呂に入ってサッパリしませんか?」と基本に忠実に選択肢を与える
→ 【結果】「嫌だ」と拒否(エラー) - テスト②:「お散歩して汗をかきましたし、足だけでも洗いましょうか?」と理由を添えてみる
→ 【結果】「疲れたからいい」と拒否(エラー) - テスト③:「ちょっとお願いしたい仕事があるんですが…」と脱衣所まで連れ出す
→ 【結果】脱衣所に着いた途端「あら、お風呂入れるの?」と自らお風呂モードに!
「よし、このルートでフラグが立った!」と心の中でガッツポーズをする瞬間は、見えないバグの回避ルートを突き止めたデバッカーそのものです。
ただ現場で一番厄介なのは、「昨日成功したルートが、今日も通じるとは限らない」ということです。
まるで毎日こっそりプログラムが書き換えられているかのように、昨日と同じ手順を踏んでも今日はあっさりエラー弾きされたりします。私たちは毎日フロアに立ち、その瞬間の「仕様」を確かめながら、最適解のコマンドを探り続けているのです。
「優しい嘘」と「期待させる嘘」の分岐点
いろいろなルートを試す中で、私が「これは絶対にバッドエンドに直結するな」と感じているやり方があります。それは、こちらの都合で行動をコントロールするための「その場しのぎの嘘」をつくことです。
以前別の記事で、認知症の方の不安を取り除くための「優しい嘘(相手の世界観に合わせる嘘)」について書いたことがあります。それとは全く別物です。
例えば、お風呂に入れたいからといって「ご家族が来るから準備しましょう」という誘い文句を使うこと。これは一見うまくいきそうですが、実は一番やってはいけない「期待させる嘘」です。
もし誘導できたとしても、「いつ家族が来るの?」と、叶わない期待を持たせたまま辻褄が合わなくなります。結果的に、ご本人をずっと不安にさせてしまう「バッドエンド」に直結するんです。
だからこそ、叶わない未来でごまかすのではなく、今の状況の中でどう納得してもらうか、自然な声かけのルート探しが重要になります。
【あわせて読みたい】
相手を不安にさせる嘘とは違い、相手の世界観を守り、安心してもらうための「嘘」もあります。その違いについては、こちらの記事で詳しく書いています。
▶︎ 認知症ケアでの「優しい嘘」との向き合い方
失敗を恐れず、何度でも最適解を探す
認知症の方とのコミュニケーションは、一筋縄ではいきません。良かれと思ってやったことが裏目に出たり、突然怒らせてしまったり、毎日がトライアンドエラーの連続です。
でも、「失敗しても大丈夫。時間を置いてリセットすれば、また別のルートを試せる」と思えれば、少しだけ肩の力が抜けます。
今日もうまくいかないルートに入ってしまったら、一旦引いて「死に戻り」。目の前のおじいちゃん、おばあちゃんが笑顔で過ごせる「最適解」を見つけるまで、私は今日もフロアでルート開拓を続けています。
【免責事項】
※この記事は、介護施設で働く筆者の個人的な体験と日々の気づきをまとめたものです。認知症の症状や対応には個人差があり、すべての方にこの記事の対応が当てはまるわけではありません。医療・福祉の専門的なアドバイスを代用するものではありませんので、あらかじめご了承ください。
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